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二大政党制は定着するのか――2013年マレーシア総選挙の現地報告と分析

主催・共催・その他 京都大学地域研究統合情報センター
種類 研究集会
対象分野 政治・経済・法律
対象地域 東南アジア
開催地方 近畿
開催場所(詳細) 京都大学稲盛財団記念館 中会議室
http://www.cias.kyoto-u.ac.jp/access/
開催時期 2013 年 05 月 19 日 10 時 00 分 から 2013 年 05 月 19 日 18 時 00 分 まで
プログラム 趣旨説明

午前の部
・報告1 「マレーシア史上もっとも注目された選挙
      ――何が変わったのか?」(中村正志)
・報告2 「国家主導の『開発』と国民の『福祉』を
      めぐる政治から読み解く」(鈴木絢女)

午後の部(1)
・報告3 「なぜPASは『UMNOに取って代わる』ことが
      できなかったのか?」(塩崎悠輝)
・報告4 「『スールー王国軍』侵入事件の総選挙への影響」(山本博之)

午後の部(2)
・報告5 「華人の政治意識の変化」(篠崎香織)
・報告6 「2013年総選挙と社会運動――
      ブルシはマレーシア社会の何を変えたのか」(伊賀司)

総合討論
・コメンテーター 鳥居高/金子芳樹
概要 趣旨
2013年5月5日に投開票が行われた第13回総選挙は、マレーシアの政治史において政権交代が現実味のあるシナリオと考えられた初めての選挙となった。与党連合は、国会(下院)の定数222のうち過半数の133議席を制して政権を維持した。ただし、与党連合と野党連合が政権を争って厳しく対立する半島部マレーシアでは、前回の選挙に引き続き、与野党の議席数が85対80でほぼ互角となった。

与党連合・国民戦線は、その前身を含め、1957年のマラヤ連邦独立から今日まで一貫してマレーシアの政権を担ってきたが、国民戦線による統治を支えてきた「民族の政治」は前回の総選挙で大きく後退し、今回の総選挙ではその傾向がさらに進んだ。国民戦線内で少数派民族を代表する政党はほとんど名目上の存在となり、国内最大の少数派民族でありビジネス界の担い手でもある華人は中央政府における存在感をほとんど失うことになった。

これに対し、野党連合・人民同盟は、中央政権の奪取には手が届かなかったものの、構成政党のうち民主行動党(DAP)と人民公正党(PKR)はいずれも解散前と比べて議席数を増やし、ボルネオ二州にも勢力を拡大して全国的な支持基盤を築いた。これと対照的に、汎マレーシア・イスラム党(PAS)は全国的な支持の拡大に成功せず、解散前と比べて議席数を減らしている。

半島部で与野党の勢力が拮抗する状況で、歴史的にも文化的にも独自性が強く、半島部と異なる政治状況が見られるボルネオ二州は、国政の行方の鍵を握っている。今年3月に発生した「スールー王国軍」兵士の侵入事件は、ボルネオ二州だけでなく半島部にも影響を及ぼしている。

州議会選挙に目を向ければ、日系企業をはじめ外国企業の進出が目覚ましい半島部西海岸のスランゴール州やペナン州は、引き続き人民同盟が州政権を握る野党州となった。マレーシアの野党は、互いの路線の違いから連立が難しいと考えられてきたが、州政府ではあるが実績を評価され信任を得たことにより、野党連合としての実体を今後強めていくのか。

国民がマレー人、華人、インド人などの複数民族から構成され、民族別政党の連合によって政権を維持してきたマレーシアにおいて、政党連合どうしの「二大政党」制は定着するのか。

今回のマレーシアの総選挙は、フェイスブックなどを通じて各陣営がインターネット上で激しい批判合戦を繰り広げたことも大きな特徴となった。テレビや新聞などの主要メディアは政府寄りであるとして、都市部や若年層を中心に、もっぱらソーシャルネットワークを通じて情報を収集・交換する層が登場し、ときには政府・与党に対して公然と批判を行った。有権者の意識の変化の背景には、選挙制度改革運動である「ブルシ運動」をはじめとする近年のマレーシアにおける社会運動の影響がある。与党批判の動きはインターネット上に留まらず、華人をはじめとする多くの有権者が公然と政権交代を叫んで街頭に繰り出す姿も見られた。
この動きが政権交代に結びつかなかったことは、インターネット上の政治運動と現実社会の政治の断絶を意味するのか、それとも次の機会に向けた潜行を意味するのか。

選挙から日が浅いために情報は限られているが、それぞれの専門と関心に照らして今回の選挙結果とその意味を検討するとともに、この選挙を通じて見えてくるマレーシア社会の姿や変化の方向についても考えてみたい。
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