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社会連携部会

地域研究の社会連携

地域研究とは、常に現場に立脚して研究を進め、現実世界の諸課題に研究を通じて対応しようとする学問分野です。地域研究では、研究によって得られた知見が狭義の学術研究の成果として評価されるだけでなく、その知見が、研究する人々、研究対象の地域社会に暮らす人々、研究活動を支え研究成果を受け取る人々のそれぞれの課題の解決にどのように寄与するかという観点からも研究の意義が問われます。このように考える地域研究者にとって、研究を深め、その成果を発信することは、自分と社会との関係を考え、現実世界をどのように構想するかを表明することに他なりません。地域研究は、いわばその成り立ちから社会との連携が織り込まれている学問分野であるとも言えるでしょう。

社会との連携という地域研究の特徴をいっそう促進するため、地域研究コンソーシアム(JCAS)は社会連携部会を置いて活動しています(2004年度から2009年度までは社会連携研究会)。2010年度より、JCASの各加盟組織が行っている社会連携活動を「JCAS社会連携プロジェクト」として登録し、個別の社会連携活動はJCAS社会連携プロジェクトが実施するとともに、社会連携部会はJCAS社会連携プロジェクトどうしの連絡調整および情報発信を担当しています。

社会連携部会 活動の3つの柱

JCAS社会連携部会では、研究対象の地域社会に暮らす人々、研究活動を支え研究成果を受け取る人々、研究する人々のそれぞれが抱える課題に対して地域研究がどのように寄与するのかという観点から、次の3つを活動の柱にしています。

1.災害・紛争への対応

ある地域社会が災害や紛争などの人道上の危機に直面しているとき、その地域社会を研究対象とする地域研究者にはどのような関わり方ができるのか。現地での通訳や案内にとどまらず、緊急時の現地社会に寄り添いながら状況を観察し、平常時に蓄積されたその地域社会の歴史・文化、生態・環境、政治・経済に関する知見を整理して発信することが災害や紛争からの中長期的な復興に大きな意味を持つという観点から、研究対象社会の課題に対する地域研究者としての専門性を通じた関わり方を考えます。

2.地域研究の成果の社会での活用

外国を研究対象とするものが多い地域研究の研究成果は、研究者自身が所属する社会に対してどのような意義を持つのか。国境を越えた関係のなかで展開される政治・外交、企業活動、開発・人道支援などの分野では、それぞれの専門家が独自のノウハウを蓄積して活動していますが、グローバル化に伴って活動する地域や分野が飛躍的に拡大しており、異文化社会での実務を効果的に行う上で、地域社会を内在的に理解する地域研究の考え方を取り入れることが不可欠です。実務者と地域研究者の言葉をどのように「翻訳」すれば両者の連携や知見の共有が可能になるかを考えます。

3.地域研究者のライフとキャリア

常勤の所属先を持たない地域研究者が、生活が保障された状態で研究を継続し、研究成果を発表するにはどのような制度や認識が必要か。博士学位取得後の若手研究者が持つホットな現地情報や、定年退職したシニア研究者の長年に及ぶ研究経験に裏打ちされた分析は、どのように学界や社会に還元できるのか。また、雇用形態の流動化やライフスタイルの多様化のなかで、出産・育児や介護などの人生上の取り組みと研究とをどのように両立させればよいのか。地域研究者もまた生身の社会的存在であるということに積極的に目を向け、今日の日本や世界における地域研究(者)を取り巻く環境について考えます。

JCAS社会連携プロジェクト

社会連携部会では、地域研究における社会連携活動の担い手と分野の拡大を促進するため、JCASの各加盟組織やそこに所属する個人・グループが行っている地域研究の社会連携活動を募集し、「JCAS社会連携プロジェクト」として登録しています。

社会連携部会は、JCAS社会連携プロジェクトの調整・促進役を果たすことで、JCAS加盟組織が行う社会連携に関わる活動どうしで交流を深め、知識や経験を共有すると同時に、ワークショップの開催や報告書の刊行などを通じて、地域研究による社会連携のあり方をJCASとして発信していくことを目指しています。

社会連携部会では、JCAS社会連携プロジェクトを随時募集しています。詳しくは「JCAS社会連携プロジェクト募集」のページをご覧ください。これまでに登録されたJCAS社会連携プロジェクトには以下のものがあります。(概要や活動内容に関する詳細情報は、それぞれのプロジェクト名をクリックしてください。)

1.災害・紛争への対応

「災害対応の地域研究」プロジェクト(2004年度~)
311被災後のディアスポラコミュニティにおけるコミュニケーションの総合的研究(2011~2012年度)
難民支援に関する法曹界・地域研究者・市民社会の連携プロジェクト(2014年度~)

2.地域研究の成果の社会での活用

地域研究と外交実践の連携プロジェクト(2011年度~)
アジアと日本を結ぶ実践型地域研究プロジェクト(2012年度~)
研究・教育=NGO/NPO人材交流プロジェクト(2004年度~2010年度)
地域研究が創る次世代型環境教育(2014年度~)

3.地域研究者のライフとキャリア

地域研究者のキャリアデザイン・プロジェクト(2010年度~)
女性地域研究者のライフ・キャリアネットワークプロジェクト(2012年度~)

共同研究プロジェクトの公募

社会連携部会では、京都大学地域研究統合情報センターとの共催により、地域研究の社会連携に関する共同研究プロジェクトを募集しています。採択された共同研究プロジェクトはJCAS社会連携プロジェクトとして登録され、研究費が支援されます。

2014年度の実施課題として、「災害対応の地域研究」に関する共同研究プロジェクトを募集しています。募集の詳細については、「災害対応の地域研究」共同研究プロジェクト公募のページをご覧ください。

活動の記録と刊行物

これまでに行ったイベント

2012.11.30 「災害対応の地域研究」共同研究プロジェクトの公募
締切:2012年11月30日(必着)
詳細:http://www.jcas.jp/activities/2012/10/post_8.html
2012.10.20 シンポジウム「原発震災被災地復興の条件――ローカルな声」
日時:2012年10月20日(土) 午後2時~6時
会場:法政大学市ヶ谷キャンパス 九段校舎3階 遠隔講義室2
詳細:http://www.jcas.jp/event/2012/09/jcascias.html
2012.10.14 アジア政経学会全国大会 分科会「マレーシア東方政策の30年―政策に対するレビューと提言」
日時:2012年10月14日(日) 午後0時15分~2時45分
会場:関西学院大学西宮上ヶ原キャンパス
詳細:http://www.jcas.jp/event/2012/10/1139.html
2012.05.12 ワークショップ「タイ洪水が映すタイ社会―災害対応から考える社会のかたち」
「災害対応の地域研究」プロジェクトとの共催によりワークショップ「タイ洪水が映すタイ社会―災害対応から考える社会のかたち」[詳細情報]を開催し、水管理やバンコクの洪水対策史における位置づけ、バンコク居住者の生活への影響、タイ政府の対応の3つの観点から2011年のタイ洪水の諸相を検討し、さらに、災害対応を直接の専門としないタイ地域研究者やタイ以外を対象とする地域研究者を交えて、それぞれの専門の立場から、タイの災害対応にあらわれるタイ社会のかたちについて検討した。
2011.12.10-
2012.2.19
連続ワークショップ「地域研究とキャリアパス―地域研究者の社会連携を目指して」
キャリアデザイン・プロジェクトの主催により、2011年12月から2012年2月にかけて、大阪大学、九州大学[詳細情報]、北海道大学[詳細情報]、京都大学[詳細情報]で事前ワークショップを開催し、各会場の参加者を交えた総括のワークショップ[詳細情報]を2012年2月19日に上智大学で開催した。
ワークショップでは、①地域研究(者)の存在を社会一般に周知できるような検定・資格(たとえば「地域研究士」)の制定、②所属先がない研究者に研究費申請などの身分や資格を保証する研究員制度(たとえば「JCAS研究員」)の導入、③大学内外の活発な人材交流のためのキャリアデザインについて情報を共有する機会の創設、④若手研究者のキャリアパスに関する国際間比較共同研究の企画・実施、⑤地域研究の成果を活かした地域密着型のシンポジウムの開催について提案があった。これらの課題については、2012年度よりJCAS運営委員に置かれた地域研究将来構想ワーキンググループで検討されることになった。
ワークショップの内容はJCASコラボレーション・シリーズ第5号として刊行された。
2011.10.27 タイ水害およびトルコ大地震に関する情報提供
2011年10月に全国的な洪水被害に見舞われたタイおよび2011年10月23日に発生した大地震により数百人の死者が出たトルコについて、被災および救援・復興活動に関する緊急情報を発信している機関・個人についての情報を収集し、JCASホームページ上の災害緊急情報のページにより情報発信した。(2011年10月27日公開)
2011.11.05 シンポジウム「『情報災害』からの復興―地域の専門家は震災にどう対応するか」
2011年度のJCAS年次集会シンポジウム「『情報災害』からの復興―地域の専門家は震災にどう対応するか」[詳細情報]の企画に参加し、第2部の運営を担当した。
シンポジウムの内容はJCASコラボレーション・シリーズ第4号として刊行された。
2011.06.30 「東日本大震災に伴う共同研究」プロジェクトの公募
2011年6月、京都大学地域研究統合情報センターとの共催により、JCAS社会連携プロジェクト「東日本大震災に伴う共同研究」の公募を行った。
「東日本大震災の被害と復興に関する研究課題」と「自由課題」の2つのテーマにより募集し[詳細情報]、「311被災後のディアスポラコミュニティにおけるコミュニケーションの総合的研究」(代表:中島成久法政大学教授)を採択した。助成期間は2011年6月から2013年3月まで、助成額は期間全体で80万円。
2011.11.05 シンポジウム「中東から変わる世界」における外務省との連携支援
「アラブの春」の他地域への影響と世界史的な意義を検討するため、2011年4月にJCAS主催の緊急シンポジウム「中東から変わる世界」[詳細情報]が開催された。外交実務と地域研究の連携を模索してきた「地域研究と外交実践の連携プロジェクト」の協力によって同シンポジウムに外務省から2人の報告者を招いた。
シンポジウムの内容はJCASコラボレーション・シリーズ第3号として刊行された。また、シンポジウムの報告と議論をもとにした特集「中東から変わる世界」が和文学術雑誌『地域研究』(第12巻第1号)に掲載された。
2011.03.13 東日本大震災への緊急対応
2011年3月11日の東日本大震災の発生に伴い、NPO法人多文化共生マネージャー全国協議会が立ち上げた「東北地方太平洋沖地震多言語支援センター」の要請を受け、地震・津波の被害状況に関する情報を外国語に翻訳する外国語専門家を募集し、約900人の応募者の中から約300人分のリストを作成して同センターに紹介した。(募集期間:2011年3月13日~22日)
東日本大震災に関する被災および救援・復興に関する緊急情報を外国語で発信している機関・個人についての情報を収集し、整理してJCASホームページ上の災害緊急情報のページにより情報発信した。(2011年3月22日公開)

これ以前の活動についてはJCAS社会連携プロジェクトのページをご覧ください。なお、社会連携研究会として行われていた活動については、JCAS社会連携プロジェクトの「研究・教育=NGO/NPO人材交流プロジェクト」「災害対応の地域研究プロジェクト」「地域研究者のキャリアデザイン・プロジェクト」に活動内容を分け、それぞれのプロジェクトのページで紹介しています。

関連刊行物

2012.03 「特集 中東から変わる世界」(『地域研究』第12巻第1号)
2011年4月に「地域研究と外交実践の連携プロジェクト」の協力により開催されたJCASシンポジウム「中東から変わる世界」[詳細情報]の報告と議論をもとに執筆された特集企画。[詳細目次]
2012.03 『地域研究とキャリアパス―地域研究者の社会連携を目指して』(JCASコラボレーション・シリーズ5)
2012年2月にキャリアデザイン・プロジェクトの主催で実施した連続ワークショップ「地域研究とキャリアパス―地域研究者の社会連携を目指して」[詳細情報1][詳細情報2][詳細情報3][詳細情報4]の報告書。[詳細目次]
2012.03 『「情報災害」からの復興―地域の専門家は震災にどう対応するか』(JCASコラボレーション・シリーズ4)
2011年11月に社会連携部会が企画・運営に協力して開催したJCAS年次集会シンポジウム「『情報災害』からの復興―地域の専門家は震災にどう対応するか」[詳細情報]の報告書。[詳細目次]
2011.09 『中東から変わる世界』(JCASコラボレーション・シリーズ3)
2011年4月に「地域研究と外交実践の連携プロジェクト」の協力により開催されたJCASシンポジウム「中東から変わる世界」[詳細情報]の報告書。[詳細目次]
2011.08 『キャリア・パスとしての社会貢献?―若手地域研究者の現状と社会連携の可能性』(JCASコラボレーション・シリーズ2)
2011年2月にキャリアデザイン研究会(現キャリアデザイン・プロジェクト)が実施したワークショップ「キャリア・パスとしての社会貢献?―若手地域研究者の現状と社会連携の可能性」[詳細情報]の報告書。[詳細目次]
2011.03 「総特集 災害と地域研究」(『地域研究』第11巻第2号)
「災害対応の地域研究プロジェクト」による研究成果の中間報告として2011年3月に刊行された特集企画。[詳細目次]

社会連携部会の構成(2012-2013年度)

部会長
 西芳実(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)

部会員(JCAS運営委員)
 立岩礼子(京都外国語大学京都ラテンアメリカ研究所・教授)
 福武慎太郎(上智大学アジア文化研究所・准教授)
 山本博之(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)

部会員(JCAS社会連携プロジェクト幹事)
 安藤和雄(京都大学東南アジア研究所・准教授)
 王柳蘭(京都大学地域研究統合情報センター・研究員)
 川端隆史(東京外国語大学・共同研究員)
 日下部尚徳(文京学院大学人間学部・助教)
 中島成久(法政大学国際文化学部・教授)