JCAS:TOPページ > 共同企画講義「地域文化研究から見る災害と復興支援」
企画責任者の氏名(所属先・職名)
西芳実(立教大学AIIC・助教)
企画の概要
講義題目:地域文化研究から見る災害と復興支援
概要:スマトラ沖地震・津波(2004年)、ミャンマー・サイクロン(2008年)、中国四川大地震(2008年)、ハイチ大地震(2010年)といった近年の出来事に示されるように、大規模な自然災害への対応と被災社会の救援と復興は、世界の持続的な発展を目指すグローバル化した現代社会において、被災社会を超えた射程を有する喫緊の課題となっています。とりわけ、社会が貧困や紛争といった、多少とも長期化した恒常的な課題を抱えている場合には、そこに災害が発生することによって、それらの課題が危機的で先鋭な現れ方を遂げます。その意味で、被災社会を救援し復興させることは、災害によって壊れたもの、失われたものを単に復旧させるにとどまらず、その社会が被災前から抱えてきた課題に取り組み、社会的な脆弱性を克服することでもあります。このため、災害への対応に当たっては、防災や人道支援に関する専門的知識・技能だけでなく、当該社会に対する深い理解を欠かすことができません。 世界のさまざまな地域で発生する災害に対して、どのように取り組むべきか。
それぞれの社会の特徴や課題を踏まえた上で、日本の防災研究の知見を生かした国際貢献はどのように可能か。本講義では、地域研究を軸に異なる研究分野や活動領域のあいだの連携と協同を推進している「地域研究コンソーシアム」(JCAS)の協力を得て、多様な専門性をもつ講師陣が、学術研究と現場実践の双方における最先端の取り組みをオムニバス形式で紹介します。
東京大学担当教員:森山工(総合文化研究科地域文化研究専攻/「人間の安全保障」プログラム)
実施場所:東京大学教養学部
実施期間:2010年10月-2011年3月
【講師ならびにテーマ】
1. 山本博之(京都大学地域研究統合情報センター)
「現地語情報を読む/言葉でない情報を読む」(10月13日、10月20日)
2. 西芳実(立教大学AIIC)
「災害が開く社会」(10月27日、11月10日)
3. 山本理夏(特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン)
「人道支援実務者による支援の現場」(11月17日、11月23日)
4. 山本直彦(奈良女子大学生活環境学部住環境学科)
「スマトラ沖地震後の居住地復興」(12月1日、12月8日)
5. 牧紀男(京都大学防災研究所)
「アジアの自然災害とすまい」(12月15日、12月22日)
※ 1月12日には講師陣による総合討論を行います。
【各回の詳細】
第1回 ガイダンス
・地域研究と地域研究コンソーシアム
・授業の進め方と講師紹介
・「○災」とは?
第2回、第3回「現地語情報を読む/言葉でない情報を読む」by 山本博之(京都大学地域研究統合情報センター准教授)
災害時に被災者にとっても支援者にとっても重要なものは情報である。現地語情報が利用できれば、英語情報からでは得られない情報を得ることもできる。しかし、現地語情報を「読む」には、語学力だけでなく、現地社会で起こっていることを理解する力も必要となる。逆に言えば、現地社会の理解力があれば、言葉で語られないメッセージを「読む」ことも可能になる。インドネシアの地震被災地での調査をもとに、被災地で発せられている言語・非言語のメッセージを地域研究者としてどのように「読む」ことができるかを考えたい。
第4回、第5回「災害が開く社会」by 西芳実(立教大学AIIC助教)
災害は、人命や財産を失う忌まわしい出来事であると同時に、社会が抱える潜在的な課題や矛盾を露呈する契機となる一面がある。平時には見えにくかった社会の構造や特徴が明らかになったり、解決困難と見られていた課題に働きかけが可能になったりする。自然災害への救援復興活動が長年にわたるアチェ独立紛争に和解をもたらしたスマトラ沖地震津波の事例や、インドネシアと日本の防災国際協力の事例をもとに、災害が社会の新しい側面を開くことについて考えたい。
第6回、第7回「人道支援実務者による支援の現場」by 山本理夏(特定非営利活動法人ピースウィンズ・ジャパン事業責任者)
スマトラ沖地震・津波やハイチ地震の支援に従事した経験から、被災地で人道支援に取り組む際の実際と現場で見えてきた問題、およびそこから考えられる課題について考える。被災地で緊急支援をどのように迅速に行うのか、現地での異なるアクターとの連携はとられているのか、そして被災社会を本当に復興させるためにできることとは何かなどの問題について、人道支援の現場から考えてみたい。
第8回、第9回「スマトラ沖地震後の居住地復興」by 山本直彦(奈良女子大学生活環境学部住環境学科准教授)
スマトラ沖地震後の復興再建段階における居住地の復興プロセスについて講述する。津波被害から生き延びた住民による居住地復興の青写真作成、これと支援団体の関わり、そしていくつかのドナーを比較しながら復興住宅の供給について述べる。都市部では、基本的に自宅所有者は元の土地に、借家人は都市郊外の再定住地に住宅供給を受けたが、両者の定住状況や狭小な復興住宅の初期の増改築状態について述べ、復興住宅供給の評価について考えたい。
第10回、第11回「アジアの自然災害とすまい」by 牧紀男(京都大学防災研究所准教授)
世界規模で起こる自然災害は、その地域に住みなれた人々にとって、住居の移動を余儀なくする。
移動のレベルは、避難所への避難や親族身内の家への避難などのレベルから、集落・都市ごと移転してしまうものまで様々である。従来は地震でも壊れない住宅にすることが災害に備える唯一の方法であるかのように考えられてきたが、実際は災害後の「移動能力」がその地域の災害に対する対応能力を決定している。世界の災害後の様々な居住化、さらには災害後の居住地の移動の事例を取り上げ、「住居の常成らざる姿」を描き出すことで、災害と住居の関係、さらには21世紀前半の災害社会における住居のあり方について考えたい。
第12回 総合討論
第13回 まとめ(試験)
【参考文献】
*林勲男編2007『2004年インド洋地震津波災害被災地の現状と復興への課題』(国立民族学博物館調査報告73号)国立民族学博物館。
*林勲男編著2010『自然災害と復興支援』明石書店。
*山本博之・中村安秀編著2009 『開かれた社会への支援を求めて──アチェ地震津波支援学際調査』
大阪大学大学院人間科学研究科「共生人道支援研究班」。
*山本博之編著2010 『支援の現場と研究をつなぐ──2009年西スマトラ地震におけるジェンダー、コミュニティ、情報』
大阪大学大学院人間科学研究科「共生人道支援研究班」。
*矢守克也2009『防災人間科学』東京大学出版会。
※本講義の内容の一部は、地域研究コンソーシアムの学術雑誌『地域研究』(販売元:昭和堂)第11巻第2号の総特集「災害と地域研究」ならびに特集1「災害がひらく社会」にまとめられています。詳しくはhttp://www.jcas.jp/about/jcas_review.html をご覧ください。