JCAS:TOPページ > JCAS社会連携プロジェクト「地域研究と外交実践の連携プロジェクト」
社会連携部会では、地域研究コンソーシアム(JCAS)の加盟組織(または加盟組織に所属する個人やグループ)が行っている地域研究の社会連携活動を「JCAS社会連携プロジェクト」として紹介しています。JCAS社会連携部会プロジェクトについては社会連携部会のページをご覧ください。 |
プロジェクト幹事: 川端隆史(東京外国語大学・共同研究員)
プロジェクト期間: 2011年度~2012年度
本プロジェクトの目的は、今日の地球社会においてなお不可欠である外交と安全保障を事例として、地域研究と実務の発展的な協働関係を促進するための研究手法を探求することである。外交・安全保障分野における古典的な意味での主体は依然として国家であるが、本研究プロジェクトでは現場レベルでの担い手に注目する。通信技術の高度化と低コスト化に伴い、個々の実務者や研究者の発信力や役割の拡大といったヒューマン・パワーの高まりが著しいなか、外交・安全保障分野でも立場を超えた連携が個別に模索されている。こうした協働の経験は、個別の情報交換にとどまらず、実務者と研究者がそれぞれの専門性を深める上でも寄与するところ大となることが見込まれる。このような問題意識のもと、本研究プロジェクトでは外交・安全保障の現場における実務者と研究者のそれぞれが持つ「情報の形」を明らかにし、両者を互いに「翻訳」するための方法論を探究する。
本プロジェクトのメンバーは、実務機関に所属している者と教育・研究機関に所属している者とからなるが、いずれも外交・安全保障の現場において、行政実務、人材育成、NGO連携などのさまざまな活動に主体的に関わってきた背景を持ち、実務と研究の接合を模索してきたという特徴を持つ。
地域研究と実務の協働のために両者を接合するためには、単に共同作業を行えばよいわけではなく、意識的な工夫が必要である。たとえば、研究者は、実務者の経験や語りを解釈するための知識(実務者は所属機関の立場・方針・理念の影響など)を理解する必要があり、実務者は、研究者による専門的・先駆的な論文・書籍には読み方(研究史上の位置づけ、学術的な分析枠組みなどの前提となる知識など)があることを理解する必要がある。本プロジェクトでは、このようなそれぞれの業界では当然のこととして暗黙に了解されている作法を浮かび上がらせ、両者の潜在的な協働の可能性を引き出し、お互いの活動を活性化させるという意義がある。
また、研究者コミュニティは実務者が蓄積した経験を研究に転換して活かす可能性が検討され、実務者の間における地域研究の社会的意義や認識を高めることへ貢献し、共同研究員自身が地域研究者と実務者の間のネットワーク形成における連携役として活動していくことが見込まれる。
2011年4月16~17日に地域研究コンソーシアムと京都大学地域研究統合情報センターが主催したシンポジウム「中東から変わる世界」に共催研究会として参加し、外務省員2名(菊池信之氏、飛林良平氏)を報告者、1名(三宅紀子氏)をフロア参加者として推薦・派遣した。
2011年6月30日には、「日本外交と平和構築―マレーシアPKO訓練センターへの講師派遣」と題して、マレーシアにある国連平和維持活動の要員向け訓練センターに派遣された内閣府の専門家2名(内閣府 佐藤美央氏、与那嶺涼子氏)とその政策立案を担当した外務省職員1名(清水和彦氏)を招き、討論を行った。
2011年10月8日には「マラッカ海峡の安全―日本の貢献から考える」と題して、マレーシアの海上法令執行庁(MMEA)に国際協力機構(JICA)専門家として派遣された海上保安庁の職員1名(土屋康二氏)を話題提供者、ASEANの安全保障の専門家で海上保安庁政策アドバイザーである佐藤考一氏(桜美林大学)をコメンテーターとして招き、発表・討論を行った。
いずれの研究会合も、学術研究者だけでなく、外務省・防衛省職員、民間企業社員などが参加し、それぞれの立場からの経験の披露や意見交換が活発に行われた。
一連の研究会合で最も特徴的な点は、話題提供者に必ず日本政府の外交・安全保障の政策立案に携わっている実務者を招いたことである。実務者の中でも幹部クラスではなく、現場の第一線で担当者として政策の立案・実施を取り仕切っている人物を対象とした。政策としてある程度形作られた段階より、一から政策を立案する人物には、現場ならではの工夫や政策立案の初期過程における学術的成果の取り入れがしばしば見られるためである。
現場での独自の工夫に対して、地域研究的な手法や人道やジェンダーなどの分野の実務専門家が派遣された地域を専門とする地域研究者と対話することで、現場でより効果的な活動を行うためのノウハウのシェアが行われた。具体的には、PKOセンターの事例では、内閣府の人道の専門家がPKO要員に国連の人道原則についてレクチャーを行ったが、その際、それぞれの参加者の出身国の文化・宗教・習慣・国の方針などによって捉え方が大きく異なることが明らかにされた。これに対して、地域研究者からは、内閣府職員は地域研究が培ってきた知見を身につけておくことでより効果的な訓練に資するとの意見が出され、今後、実務サイドでも地域研究の知見を活用すべく、地域研究者との連携を行いたいとの提案もなされ、具体的な連携の可能性が検討された。
なお、連携にあたって最も苦労した点はスピーカーの出席の確保であった。3回の研究会合以外にも何度か研究会合が企画されたが、職務上の緊急事態対応のため出席を確約できないケースや、立場上、公の意見表明をしにくいケースなどがあり、実行に移しにくいものもあった。一方で、一連の研究会合で個人的な見解も含め外交・安全保障の現場での経験を臆することなく語った実務者との間では、地域研究の実務における有用性への理解や連携の可能性の広がりがみられた。
1982年に開始されたマレーシアの東方政策(ルックイースト政策)を取り上げ、日本・韓国の集団主義と勤労倫理を学ぶための留学生派遣事業が30年を経過して東アジアの産官学ネットワークにどのような影響を与えたかを学術研究の立場から評価する。実施に当たっては日本外務省を通じてマレーシア政府の協力を仰ぎ、研究成果公表に際しては政策当局者への政策提言も行う。
2012年6月23日、マレーシア・スランゴール州プトラジャヤのマリオット・ホテルにて東方政策30周年記念シンポジウムが開催され、本プロジェクトより穴沢眞氏、吉村真子氏、小野真由美氏(早稲田大学)、川端隆史氏、光成歩氏(東京大学大学院・博士課程)、鈴木真弓氏(京都大学大学院・博士課程)が報告者として参加した。シンポジウムの様子はマレーシアの全国紙でも大きく報じられ、とくに『スター』では日本からの若手研究者が中心に紹介された[詳細情報]。
2012年10月14日、関西学院大学で開催されるアジア政経学会の全国大会において、本プロジェクトの企画による分科会「マレーシア東方政策の30年―政策に対するレビューと提言」を開催(予定)。
司会:川端隆史
報告1:鈴木絢女(福岡女子大学)「日・マレーシア外交関係の30年―東方政策から「すれ違い」へ」
報告2:穴沢眞(小樽商科大学)「東方政策が日本とマレーシアの経済関係に与えたインパクト」
報告3:篠崎香織(北九州市立大学)「『新経済政策』におけるキャリアパスと東方政策」
討論:山本博之(京都大学)
川端隆史(東京外国語大学・共同研究員)
金子芳樹(獨協大学外国語学部・教授)
穴沢眞(小樽商科大学商学部・教授)
吉村真子(法政大学社会学部・教授)
山本博之(京都大学地域研究統合情報センター・准教授)